※このお話はフィクションです。
期待を裏切らないドラマチックな展開をいつも用意してくれている素敵な子のお話。
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カズハちゃんは、可愛い。
たとえそれが、顔面にぶち込まれたヒアルロン酸やボトックス、二重のプチ整形やセラミックの白すぎる偽物の歯のおかげだったとしても。
新宿を歩けば10秒おきに声をかけられ、クラブに行けばいつの間にかVIPルームにいるし、初めて行くカフェで特別に一人だけアイスクリームをサービスで出されちゃうくらい可愛い。
『可愛いは正義』の名のもとに輝くカズハちゃんを小学生の頃からずっと見てきた。
正確にはカズハちゃんよりもカズハちゃんの周りを取り巻く人間を見ていた。
特に、男。
『お金ない人、きらぁ~い』と甘い声であっけらかんと言う彼女をニコニコしながら見守る多くの男たちは、一体どこから湧いて出るのだろう?
同じ世界に生きているはずなのに、まるでパラレルワールドのごとく彼女の周りの常識だけ私の世界の物とは違っていた。
デートで割り勘は当たり前、会社の飲み会ですら上司がいてもきちんと割り勘、結婚してもお互いの収入や貯金は公表せずに財布は別々で暮らす人が多いこの現代社会で。
インスタで主婦層がやたらポイ活や積み立てNISAやGUやしまむらのコーディネートを検索しまくっているこの不景気のさなかで。
カズハちゃんはいつも眩しかった。
海に行きたいけど車ないからという理由だけで往復4時間の運転と海の家代や夜ご飯代を出てくれる親切兼下心満載の男。
ノリで鎌倉きたけど帰り電車とかだるいから迎えに来て。と言った時も彼は1時間半以上運転して迎えに来た。
引っ越しするけど家電買うお金なぁい。と言った彼女にドラム式洗濯乾燥機と冷蔵庫と空気清浄機をプレゼントしてくれたメンヘラ男。
ヴィトン来たからついでに何か買って~と言って45万のバックをお土産のごとく買った経営者の3股不倫魔神ブー。
一体どうしたらそんな人と出会えてさらには好きになってもらえるんだろう?
中学生の頃から彼女はすでにこうだったので努力なんかではなく生まれつきの才能だったとしか思えない。
だってカズハちゃんはヒアルロン酸なんか注射しなくても、小学生の頃からロリコン教師に鬼贔屓されたりスーパーでヤバいおじさんに話しかけられたり道端で知らないおじさんからお菓子やお小遣いをもらってしまうほど可愛かったのだ。
『東京オリンピック、ドローンで作った地球が見えるよ』と写真をLINEで送ってくれた時、ドローンなんかよりもどんだけ高層で広いテラスのあるタワマンに住んでるんだよ!という事の方に目が行ってしまった。
『一目惚れなのぉ♡』と言った14万円もするオットマンは本当に使っているのだろうか。
・・・邪魔じゃね?ソファーキングサイズのベッド位にデカいのに。
彼氏が全額払ってくれているというタワマンにはオシャレなインテリアが溢れ、まるでInstagramの広告に出てくるホテルのスイートルームのようだった。
それでも今の彼氏は歴代の彼氏の中でも一番お金がないという。
『だってぇ、お小遣いもくれないし旅行も2ヶ月に1回しか行けないんだよぅ。カズハ、旅行は毎月行きたい。』
えぇ、そうでしょうともカズハ様。
どこでそんな彼氏と知り合ったの?と聞くと、あっけらかんと『マッチングアプリ~』と言った。
どうやらアプリでは男性の収入が自己申告制らしい。これならカズハ様もはずれを引く手間がないので良いですね。
でもおかしいな。私の知っているTwitter界隈ではマッチングアプリは年収詐欺なんてざらで、本当にそんな高収入な人に実際出会った人なんていないのだが…???
付き合って2ヶ月だというのにそんなタワマンに引っ越しをして、両親に会わせたというから驚きだ。
『え?だって婚活ってそういうもんじゃなぁ~い?みんな1年以内に籍入れるとか普通だよ?友達半年で6回しか会ってないのに結婚したしww』
もういい年だしそろそろ普通に結婚してのんびりしたぁいと言うカズハちゃんの横顔はやっぱり可愛い。
Eラインがこんなに綺麗に出ている顔は、加工まみれのInstagram以外では見た事がない。
そんな事を思いつつ、私はその彼との関係の不自然なスピード感と両親には会うのに友達の私に出くわしても目も合わせず挨拶もしない彼の無作法さに違和感を覚えていた。
そしてそういった違和感を考えると薄っすらと口元が緩み、胸がトキメクのを感じた。
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2ヶ月ぶりに会ってその後の進展を聞いた。
ホテルのような豪華なエントランスに綺麗すぎる景色の見えるカズハちゃんのお家で。
手土産に持ってきたポテトチップスやコーラはドンキの袋の中で恥ずかしそうにしていた。
でも良いの。なんてったって私は幼馴染なのだから。
『パパ活はやめたし彼氏は結婚してたしもぉ最悪ぅ~。てかそんな事より今の彼氏お金なさ過ぎてほんと無理~』
会って10秒でこんなに面白そうな情報を沢山ありがとう(*´▽`*)
『でも今新しい男いないしお金勿体ないからとりあえず現状維持~。』
『・・・』
私は思わずニヤついてしまう。
これでこそカズハ様なのだ。
彼女は私の期待を裏切らない。
彼女には、ずっとこうであってほしいのだ。
その辺の優しい一般的なサラリーマンと結婚して子供が生まれて慎ましやかに生活、なんてして欲しくない。
豪華絢爛、人から妬まれ恨まれ愛され、マリーアントワネットのように生きていて欲しい。
星の数ほどいる登録者の中で、マッチングアプリに潜む“既婚者なのに登録しているクズ”にちゃんと引っ掛かかった(おまけにそれで両親に会いに行けるという厚顔サイコパス男)のにちょっと凹むくらいの痛手で済んでいる。
彼女は、もしかしたら私が思っているよりもずっと強いのかもしれない。
あぁ、麗しの我らがカズハ様。
非常識で我儘で最強のメンタルをお持ちの(もしくはなんも考えてない)私の女王様。
女王様はCHANELの時計とカルティエのリングをした手で湖池屋のポテトチップスをつまんでいる。
こんなに豪華な物に囲まれて優雅に暮らしているというのに、好きな物はおかめ納豆とポテトチップスで休みの日は2日もお風呂に入らないでパジャマで過ごしているというミスマッチさがたまらなく愛おしくなる。
彼女は私の友人であり、手の届かない絶対的な存在で、憧れであり、ミューズ(女神)なのだ。
アイコスを吸いながらせっかく買ったオットマンはおろかソファーにも座らないカズハちゃん。
ラグの上でダルそうにヤンキー座りをしながらマッチングアプリをスワイプし続けるカズハちゃんは、まるで歌舞伎町の非常階段でタバコ休憩するキャバ嬢そのものだった。
悪目立ちするような美しさと、上品ではないのに何故か人を引き付ける魅力とカリスマ性がある彼女は、いつもみんなを魅了してやまない。
この先もきっと彼女は、TVやYouTubeなんかで見るよりもはるかに楽しいリアルでスリリング、悪趣味なドラマを見せてくれるに違いないと思った。
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おしまい
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