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私は海の見える一軒家を3,000万円以内で。

※このお話はフィクションです。池袋駅である男女を見て自分の老後を不安に思う女性のお話。

***

時刻は午後23時、少しすいた山手線。

恐らくマッチングアプリで出会ったと思われる男女が私の右隣に横並びで座った。

爽やかそうに見える30代半ばの男性と、甘めだけどきちんとした会社員みたいな服を着て軽く髪を巻いた若い女性。

お互い敬語を使いながら、それぞれいい感じに遠慮しつつ会話をしていた。

話し方も会話の内容もとても上品でお似合いだなぁと私は思った。

コロナ禍でも、こういった出会いで食事をしに行く人もちゃんと一定数いるという事になんだかモヤモヤしつつも、そのお似合いそうな男女の会話をBGMにしていた。

20代半ばだというのに、セリーヌのラゲージバッグを持っていた。

40万以上もするバッグを持っているのに電車に乗ってデート…と思ってしまうのは私の金銭感覚がオカシイからなのだろうか。

20代だというのに、いや、むしろ若い世代の方が30万円越えのバッグを持っている事の方が多い気がする東京は、きっとそんな街なのだ。

池袋についた時、男性が降りる前にこう言った。

『また、お誘いしても良いですか?』

はい、100点。その誘い方、100点です。

自分に向けられたわけでもないのに勝手に100点のジャッジをした私は未婚の地味な30代女性というのが滑稽すぎる。

『はい、勿論です。』

隣の女性がにっこりと答える。

あぁ、素敵なお似合いカップル爆誕、おめでとうございます。

マスクで顔の半分は見えないけれど、きっと二人とも標準よりも少し上の容姿に違いない。

そして身に付けているシワのない服や綺麗な靴、手入れの行き届いた髪や爪を見る限り生活水準も平均値よりきっと高いのだろう。

私も降りていくその男性の背中を見送った。

さようなら、名前はおろか顔の半分すら分からない素敵な男性よ。そして新しい彼女とお幸せに。

アプリの恋・ミサちゃん

ドアが閉まり、会釈から顔をあげた隣の女性。

1.2.3.4.5

5秒後に彼女はスマホを取り出しラインを秒で開いて何かをし、そのあとなんとホーム画面からマッチングアプリを開いていた。

沢山ついた《いいね》の数を確認し、素早いタッチで男性のプロフィールを見ている。

・・・まじか。

デートの余韻とかないの?今この瞬間じゃなくても良くない!?

つーか、さっきの人そんなにタイプじゃなかったんですか?

じゃあ私に紹介してくださいよ←違う

あんなに爽やかで上品で謙虚そうだったのに???

お誘いしても良いですか?ってフレーズ言える人、少ないと思うよ??

服もオシャレだったよ?あなたとのデートの為にきっとあのオシャレパーマも気合入れてセットしたんだよ?

シンプルだけど持っていた時計も、はいていた靴も良いやつっぽかったよ?

シワのないシャツや汚れていないピカピカの靴を履いている男性って実は少なかったりするよ?

ほら、向かいの席の男性陣見てごらん?みんな靴薄汚れてるじゃん。あいつのスニーカーなんて泥だらけのぼろぼろだぜ?

それなのにあなたはもう他の人を探しているの???

頭の中で数々のツッコミを入れながら私は彼女の素早い指の動きをただ見ていた。

あぁ。

私がマッチングアプリを出来ない理由はこれだ。

選ばれているという事も、選んでいるという事も、こんな風にしてスマホの画面でデータ化されている世界が自分には耐えられない。

常に同時進行で審査されている面接のような気分。

自分が選ぶ側の立場の場合は、まるで相手は不動産の物件のようだと思った。

3,000万円台で海の見える場所、築10年以内、日当たり良好、30平米以上、テレワークなので多少田舎でもOK、出来れば中古の一軒家で穏やかに暮らしたい。

これが不動産の条件。

年収650万以上、28~34歳、身長170㎝以上、長男以外、イケメンじゃなくていいけど清潔感のある人で、コロナの事もあるしテレワーク出来るIT系か手堅い公務員希望、出来れば優しい人が良い。

これが交際相手に求める条件。

ぽちっ、ハイ検索。34件ヒットしました。

ヒットの後に出てくるお勧めの文言まで不動産の様に想像してしまう。

→予算を後500万円上げると4件増えます。駅から15分離れると2件増えます。

→年齢をあとプラス5歳にすると30人増えます。年収を50万円下げると15人増えます。

こんな、条件を設定してから好きになる準備をしたくないし、出来ない。

どう頑張っても、心がこのシステムに追いつかない。

私はきっと、現実が見れないロマンチストなのだろう。

こんな世の中じゃ、合理的に生きていかなければ取り残されて老後はお先真っ暗だ。

深く考えすぎるなんてナンセンス。

新しいツールが出来たんだって!ちょっとやってみよっか。位の軽いスタンスじゃないと現代は生きていくこと自体が苦しい。

時代は常に変化していく物なのだ。

『アプリなんだから基本同時進行なんて暗黙のルールだよ。常識。』このルールにそもそも自分はついて行けそうにない。

ロマンスと情熱が心を揺さぶるおとぎ話の国で生きる私にはそれが出来ない。

恋愛って、そうゆうモノだったけ…?もう思い出せない。

お前はシンデレラ・コンプレックスだなんて言われるけれどそうじゃない。

私は、『結婚』したいから彼氏が欲しいのではなくて、『好きな人』が出来て初めて結婚したいと思えるのだ。

順番が何だか逆のように感じる婚活マッチングアプリを避けてしまう理由はその違和感からかもしれない。

決して『いつか素敵な王子様が迎えに来てくれるはず』だなんて妄想はしていない。

王子様はイケメンで優しいけど実はマザコンで我儘でお金はあるけど不誠実でした。家事も育児も傍観者でした。

という可能性を考慮して(どんだけネガティブ)一人でもそれなりに生きていけるように畑を地道に耕していた農婦が私なのだ。

初めから自分がお城で優雅にお茶をして待っていられるお姫様ではないことは分かっていた。

既婚者の友人たちが口々に言う『お金ないし離婚したくない』や『恋愛とかじゃなくて生活だから』という言葉を私は一生口にしたくない。

ほぼ100%の女友達が愛が冷めても離婚しないのはお金のためと言う。

素敵な庭付き一軒家に住み可愛い子供がいてお金もちゃんとある私の周りのお姫様達はみんな同じ様な愚痴を高級ランチを食べながら言う。

あぁ。

指先から生れる条件付きの恋ではなく、条件が揃っていなかったとしても共に生きていきましょうと言えるくらい好きになれる人が欲しい。

でもそんな素敵なドラマは自分の人生に到底起こる様な気がしない。

【隣でマッチングアプリを見ていたミサちゃんのお話はこちら→アプリの恋・ミサちゃん】

マッチングアプリの恋・ミサちゃん

そんな事を思いながら、ふと左隣に座っている若い女性を見た。

彼女も何やら熱心にスマホをいじっている。

マッチングアプリ…と思いきや、『メッセージありがとうございます♡食事のみ、1時間2以上希望です。』

・・・パパ活のアプリだった。

【パパ活のリンちゃんのお話はこちら→シトリンの女・リン】

思わず半笑いになって開いている自分の口元が分かった。

マスクをしていて良かった。

こんな薄ら笑いを、周りの人に見られたくない。私が完全に変な奴に見えてしまう。

先進国で経済的にも豊かだと思っていた日本の平均賃金は今や韓国を下回り、車は高嶺の花となり大卒の初任給が20万円前後。

退職金も出ない中小企業は多い。

パパ活アプリの女性は小さなYSLの黒いバッグを持ってTiffanyのリングをし首にはヴァンクリーフ&アーペルのアルハンブラらしきネックレスを着けている。

それなのに洋服はペラペラのフリルが付いたマイメロみたいな薄いピンクのワンピースを着ていた。

29万8,100円のネックレスを身にまとう彼女からはマスク越しからでもわかる香水の甘い香りがした。

自分の短く何の色もついていない爪を眺めながら、私は何だか心がカラカラになっていくような気がした。

そうだよね。

若くて可愛いうちにちゃんと稼ぐか、将来有望な男に投資しないとね。

夢見がちな事言ってちゃ、こんな日本で現実生きていけねぇわ。

そう思いながら私はFXのアプリをそっと開いた。

***

おしまい。

***

電車でふと横を見ればこんな光景ばかりなのは東京だからなのだろうか?

それとも時代なのですかね?

さて、私はFXもマッチングアプリもパパ活も何もできていないお先真っ暗女です。笑

賢くもないので資産運用の仕方も分からない。なんか失敗したら怖いし。という事で現金の持ち腐れ。

だから大人しく今日もU-NEXTのスーパーナチュラルseason11見て寝ます。

ディーンとサミーがイケメンすぎて話全く入ってこないや。

ていうか私このドラマあと何時間見れば終われるんだ。

ながら見しているのでもはや内容全く分からないけれど意地になっているので必ずやシーズン15まで見ます。

おやすみなさい。皆様も素敵な夢を!!!

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