※この小説はフィクションです。お酒にも人生にも悪酔いしてしまう酔っぱらいのエミちゃんのお話。
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ヨウコちゃんはいつだってキリッとしていて、天海祐希とか菜々緒みたいだ。
それに引き換え私は、身長も顔面偏差値も中小企業のOLという肩書も全てが『ちょうどいい普通の女』だった。
昭和の時代から私のような普通の女達が胸をときめかせながら見る月9のドラマは今期、菜々緒と神白石萌音が出ている。
9等身、強くしなやかで美しい菜々緒の横に、ハムスターや小リスの様にちょろちょろする神白石萌音。
決して目を引くような美人ではない、でも何だか感情移入できそうなタイプの女優。
あぁ。
それなのに、ドラマの中で何故か神白石萌音はイケメンにばかりモテる、モテる、モテる。
笑っちゃうくらいモテる。仕事のシーン?そんなものはビックリする程現実味がなくてもはや頭に入ってこない。
それでもみんなが夢中になるのは、こんな普通っぽい子にタイプの違う子犬系やらドS系ツンデレイケメンやらが寄ってきて、
揺れ動く乙女心、どっちも良くて選べない!キャーーー♡という妄想が楽しい女子だからである。
いいなぁ。いいなぁ。
とびきりの美人ではなくどこか親近感のある容姿の女優さんを使っているから視聴者は感情移入しやすいと思った??
残念。だって、現実は、こうじゃない。
そこそこの幸せなんて、そもそもそこそこで良いと思っている人間の元になんか来ない。
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どの飲み会でも、合コンでも、サークルでも、私はそこそこモテた。
だって、丁度良かったから。特別美人でもないけどブスってほどでもない。
頭も別に良くはないけど、あまり物事を深く考えないのが私の良い所でもあるってヨウコちゃんも言ってたし。
色々とそこそこなんだけど、私はいつだって特別にはなれない。
今日もそこそこな私は酔っ払った勢いで、そこまで好きでもない、けど今この瞬間は好きっぽい男の子の家に行き朝を迎える。
何事もなかったかのようにニコニコしておはようを言い、特に自分たちの関係を問い詰める事もせず、丁度いい感じで良い雰囲気であやふやに帰る。
そんな私をヨウコちゃんは羨ましいと言うけれど、私は酔っ払ってだらしない自分よりもヨウコちゃんのような女の子の方が男の人に大切にされるし最終的に幸せになれるという事を知っている。
あやふやに帰宅した後きちんと付き合ってほしいと言われたことは一度もないし、多分気になる女の子から都合の良い女に降格しているのだろう。
本当に彼女にしたい女の子なら、出会ってすぐに家に来る?なんて、ホテル行く?なんて、そんな言葉は、絶対に言わない。
そんな事を言われたらもはやそれは『絶対に真剣なお付き合いをあなたとはしません。』と言われているようなものだ。

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分かってる。分かっているのに、私がヨウコちゃんの様にきちんとできないのは、自分に秀でた才能や容姿がない至って普通の女だからだ。
不安なのだ。
女子高生や女子大生と言うブランドが無くなってしまってからは、自分にどれだけの価値があるのだろうかと怯えている。
キラキラのブランドネームがなくなった今、残ったのは女であるという事だけの様な気がした。
ヨウコちゃんのように将来の明確な目標やそれに伴うセンスがあるしっかりした人間には、私の気持ちなんて理解できないと思う。
『そこそこで良いという奴の元に人並みの幸せなんて来ないよ。そもそもね、大抵の人間は頑張って頑張って丁度人並みなの。』
しっかりとした口調で赤ワインを飲みながらヨウコちゃんが言う。
『人並みで良いとか言ってる人間は、その時点で人並みを馬鹿にしている。そんな奴が平均的な幸せを簡単につかみ取れると思うなよ?』
はーい、分かってますよぅだ。ちぇっ。ヨウコちゃんはいつも正論で私を打ちのめしてくる。
でも、酔っ払ってふわふわヘラヘラしている時は何もかもどうでも良くなって真剣に考える事を止められる。
この先の人生の不安(結婚できる?そもそもちゃんとした彼氏できる?貯金は大丈夫?てか何歳まで働けって言うんだチクショウ)とかそんな暗い気持ちになる悩みが吹っ飛ぶ。
その場だけの言葉でも可愛いねって言われてちやほやされて、色んな不安を忘れ去り心地よくなりたい。
真面目に常識的に社会人として恥ずかしくない行いを。
そんなのマジで、プレッシャー過ぎる。
何もちゃんと考えられない、そういう状態になってもまぁ良いですよ、許されますよ、という時って世の中で酔っ払っている時だけな気がする。
もしもヨウコちゃんのようにお酒が強かったら、私はこんな風にはならなかったのかな?
『酔っ払っちゃったから』なんていう、何でも許されるかのような言い訳が使えるから、私はいつも傷付かずにいられる気がする。
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あぁ、特徴のない私はいつか似たようなその他大勢の女の子の記憶として彼らの中に埋もれていく。
私も彼らを忘れていく。きっと名前はおろか顔すら忘れてしまう気がする。
だからいいんだ。
どこのだれかも良く知らない、アプリで出会っただけの女。
アプリで結婚する人、最近多いんだってね。
でも私は、複数人同時進行でデートという審査されて、最終選考に残れない女。
それでもいいもん、別に、いいんだもん。
私だって今この瞬間が寂しくて暇だから誰かといたいだけ。
寂しさを利用しているのは男だけだと思った?私が丁度いい女だと思った?
違うよ。あなたたち男性も、私にとって『ちょうど良い男』なの。
きちんとした人付き合い?大人としての常識?ヤダヤダ。責任なんてとりたくないよ。
だから。
今日も、『酔っ払っちゃった』ので『その間の事は全てチャラですよね?』という免罪符のような魔法の言葉と共にフラフラと歩きだす。
パワーストーンの意味を信じてアメジストのネックレスなんか付けていたって、結局私はお酒にも人生にも悪酔いしているような気がした。
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おしまい
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