※このお話はフィクションです。明るくて闇深いリンちゃんのお話。
友達のハルカちゃんのお話はこちらから→https://baroque-bright.com/very-short-stories/2022/02/11/opal-lady-haruka-2019/
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11月生まれのリンちゃんは、明るくて可愛くて面白い子だった。
数ヶ月ぶりに私に「会いたい。」と言ってくれたリンちゃんはガリガリに痩せ細っていて棒切れの様だった。
こんなにガリガリに痩せているというのに、リンちゃんはタピオカミルクティーを飲みながら「痩せなきゃなぁ。」と言った。
もう十分痩せているよという私の声はまるで届いていないようだった。
リンちゃんは付き合う男性が変わるたび太ったり痩せたりを激しく繰り返す。
学生時代からリンちゃんは皆の憧れだった。
可愛い顔にお人形の様な華奢なスタイル、どこに売っているの?と聞きたくなるくらい細いスキニーデニムは死ぬほど似合っていた。
いつも明るくて、皆の人気者。ヒエラルキーの頂点のイケてる女子。
女の子からは羨望の眼差しと共に妬まれまくり、男の子たちはリンちゃんと話したくて仕方がないようだった。
『可愛いは正義』の名のもとに、リンちゃんの多少の我儘はスルーされていた。
そんなリンちゃんに良くも悪くもハッキリものを言えたのは私だけで、だから私と彼女は10年以上もつるんでいるのかもしれない。

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「縁切れて良かったじゃん。もっと良い人本当にいると思うし、なんなら私初めからアイツ好きじゃなかったよ。」
失礼な言い方かもしれないが、本音をズバッと言うのが私の主義だ。
やんわり、優しい言葉で伝えたって、バカなリンちゃんには伝わらない。
と言っても、これだけハッキリ言ったところで多分、これっぽっちも伝わってはいないのだろうけれど。
「でもぉ、本当に好きだったんだよぉ?ちゃんと愛してくれてたしぃ。」
リンちゃんのこの語尾を伸ばすような甘ったれた話し方は本当にイライラする。
来年30歳になろうという女が、こんなハタチの地下アイドルみたいな話し方はいくら可愛くても似合わない。
それなのに、いつかの飲み会で私の男友達が『リンちゃんの喋り方って、なんか可愛いよなぁ。』なんて言うのだから嫌になる。
「愛じゃないでしょ。ただの都合の良い関係にロマンチックな言葉使ってごまかしてるだけじゃん。」
「でもぉ。ちゃんと奥さんと別れるって言ってたのにぃ。」

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この歳になると、友人で不倫をしている人がいきなり多くあらわれる。
1人が告白しだすと、堰を切ったように私も私もとみんなが暴露しだして、気付くとそんな子が周りに6人もいた。
正直、恐ろしいと思った。
関わりたくないと思うのと同時に、嫌悪感でいっぱいになった。
言葉を発せずとも、彼女達を見る私の目は軽蔑感で溢れていた事だろう。
奥さんがいるのに他の女性を好きになる男性を、私はそもそも好きにはならない。
馬鹿じゃねぇのコイツ。という怒りと、
___苺に生えたふわふわのカビのような気色悪さを感じゾッとする。
不倫をしていた子が結婚し母になり平和に暮らそうとした時、
いつか自分の旦那さんも他の女と同じ事をするかもしれないと何故考えられないのだろう?といつも思った。
自分がされて嫌な事は、人にしてはいけないのだ。
絶対に。

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「リンちゃん、好きになる人の趣味悪いよ。」
「そうかなぁ?でもぉ、好きになっちゃったもんはしょうがなくなぁい?」
「いや、大して好きじゃないでしょ。それに因果応報って言ってね。自分がしたことはいつか自分に返って来るんだよ。」
「ねぇ~!!わかるぅ~!!私、だから結婚できないんだよ、怖くて♡えへ♡」
おちゃらけて笑うリンちゃんを、私は心底気の毒に思った。

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私達が仲良くなったのは高校2年生の時。
文化祭の準備で遅くなり、駅のホームで電車を待っている時だった。
「ねぇねぇ、ハルカちゃん門限とかあるぅ?遊びに行かない?」
正直あまり話したこともないリンちゃんに誘われてビックリしたが、何故か私はそのままリンちゃんと遊んだ。
しかも朝まで。
ゲームセンターでプリクラを撮ったり、コンビニでおでんを買って食べたりしてひたすらお喋りをしていた。
あまり話した事がなかったのに何故か意気投合したのは、家庭環境が似ていたからかもしれない。
高校生だというのに、私のうちもリンちゃんのうちも門限がなかった。
私の両親は、私の行動に何一つ干渉しなかった。
真面目で勤勉、正義感が強く自分で言うのも何だがおまけに少し賢かった。
この子は何もしなくても大丈夫、と手抜きにも見えるような信頼のおかげで私は朝に帰ろうが夜に帰ろうが関係なかった。
と言っても、両親は仕事でいつも家におらず、いたとしても寝室で爆睡しているので起こした事などないのだけれど。
実際、夜中に出歩いても補導すらされた事がなかった。
まぁ私の容姿が当時どう見ても落ち着いたOL過ぎて高校生に見えなかったからという理由なのかもしれないが。

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リンちゃんの家は母子家庭で、お母さんはいつも家にいなかった。
リンちゃんは家に帰るのが嫌で、いつも大学生や社会人の年上の人達とつるんでいた。
リンちゃんは、物凄く寂しがり屋なのだろう。
誰もいない家に1人で帰るのが嫌なのだ。
孤独に耐えられる力は人によって全く違う。
同じくほったらかしにされたところで、寂しいと思ってしまう人間と自由最高!と自立していく人間は初めから違う種類なのだ。
容姿端麗でもコミュニケーションの達人でもない私はもちろん後者の方で、孤独に耐える強さや自立心を勝手に習得した。
でも、美人で人の良いリンちゃんを周りが放っておくはずもなく悪い仲間は増えていった。
タバコとお香の匂いが充満するオシャレなリンちゃんの部屋で私は若干キレながら言った。
「そんな仲間止めなよ。利用されてるだけだよ。自分がもっとしっかりしないと周りに流されるだけの人間になっちゃうよ。」

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人に流されやすいリンちゃんは、私の自信過剰とも言える性格とまるで正しさの塊のような物の言い方であっさり私の方に流れてきた。
そう。リンちゃんは、バカなのだ。
そしてよく言えば、素直なのだ。
この素直でアホなリンちゃんが、悪い方向に流されませんようにと、高校生の時からずっと思っていた。
イギリスに留学した間も連絡を取り続け、大学生になり、それなりの社会人になって。
お互いそれぞれの道を歩みながらも、ずっとどこかで繋がってきた。
私は、リンちゃんが好きなのだ。
でも。
流されやすいリンちゃんはやっぱり事あるごとに学習せず失敗し続けた。
特に選ぶ男の趣味は最悪だった。
ヒモ男にDV野郎、金持ちかと思ったら犯罪者まがいな仕事の奴。
挙句の果てに…
今回はよりにもよって不細工な中年の金髪不倫クソ豚野郎だった。
このあだ名は私が付けたのだが、未来永劫私はコイツの名前を覚える事はなくこの不名誉でダサい名前で呼び続けるだろう。

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「私、きっと幸せになれない気がするぅ。」もう吸えなくなったタピオカをツンツンしながらリンちゃんは言った。
そんなことないよ、とは言えなかった。
だって、リンちゃんは…
「ねね、パワーストーンとかって効果あるのかなぁ?今ちょっとハマってるんだよねぇ♡」
血管が浮き出るような細すぎる腕には、ピンクと黄色の数珠のブレスレットが着いている。
「これ、3万もするんだよぉ。彼氏、あ、豚野郎が買ってくれたのww」
全然可愛くないし、洋服にも合っていないそのブレスレットを着けるという事は、本当に彼の事が好きなのかもしれないとふと思った。
「黄色いのがシトリン?で金運でぇ、ピンクがローズ何とかで恋愛なんだって!私11月生まれだからシトリンが誕生石なんだぁ♡」
「ふーん。だとしたらピンクの効果なくない?」
「えーひどぉい!!でもまぁ、少なくともお金には困ってないから黄色いのは効果あるなっ!」
真新しいヴィトンの40万以上もする鞄やシャネルのピアスをキラキラさせながら言うリンちゃんは説得力がある。
でもそれは単純に、リンちゃんの容姿と話術でお金が舞い込んできているだけだと思うのだけれど。
「私、黄色ってそんなに好きな色じゃないんだけどぉ。でもピンクって歳でもないしねぇ~」
リンちゃんに必要なのは、優しく包容力のある恋人ではなく、ましてやパワーストーンなんかでもなく。
自分への自信や自分の事を好きになれる強さだ。
彼女は『誰かから必要とされること』で自分の価値を見出している。
本来、男から必要とされなかったとしても、『自分自身は価値ある唯一無二の存在』であるはずなのに。

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リンちゃんは本当は賢い。
数学の教師が好きというだけの理由で期末テストで100点を取った事があった。
その後、カンニングを疑われたリンちゃんは勉強するのを止めた。
彼女はそれ位、単純に、頭が良い。
そしてとても繊細で傷つきやすいのだ。
努力する方向さえ分かれば、、、彼女は物凄く高いポテンシャルを持っている。
それなのに、『誰かから愛されるという事』に関しての方向を、いつもリンちゃんは見誤る。

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「最近、Twitterで不倫用の裏垢作っちゃた♡」とケラケラ笑うリンちゃんのスマホを、私は遠目からチラリとしか見なかった。
けれど、Twitterで『不倫』と検索しただけで、大量に見つかる悲しい女性達(もしくは責任感皆無のハッピー野郎)がどれほどいる事か。
暇つぶしに覗いたそのつぶやきたちはあまりに暗く、重く、そして浅はかだった。
「ハルカちゃんは経験したことないからそんな風に言うんだよぉ。私だって、本当はちゃんと悩んだり傷ついたりしてる。
好きになった人が、たまたま既婚者だっただけ。」
この、『好きになった人がたまたま既婚者だっただけ。』というワードは、面白い位Twitterの不倫アカウントに溢れていた。
何かの合言葉なのだろうか?というくらい。

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彼女達はたまたま既婚者を好きになった場合、残念だけど諦めようという考えがそもそもない。
好きになったとしても、既婚者だと知った時点でこの常識があれば済む話なのだ。
それなのに自分の方が、という競り合う気持ちやプライドが関係を持ち続けるという事に繋がっていく。
都合の良いようにされている事に気づきながら、日常にないほんのちょっとの『危険でドラマチックな関係の自分』に酔っている。
『2番目でも健気な自分』を韓国ドラマの悲劇のヒロインのごとく、応援して下さいと顔も名前も知らないTwitterの中で慰めあう。
愛してるの。という酔っ払ったような言い訳を掲げ正当化しようとする。
本当の愛なら離婚してからどうぞ。
悩んだり苦しんだりしながらのその関係でオイシイ思いをするのは男だけだというのに。

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『自分がされて嫌な事は、人にしちゃいけないんだよ。絶対に。』
そう言った私は、自分たちの親の事を思い出していた。
『子供さえいなければ離婚できたのに。』と母親に呪文の様に言われ続けていた私と、
『子供さえいなければ結婚できたのに。』と母親に泣かれ続けていたリンちゃん。
リンちゃんの両親は物心つく頃から絶賛不倫中で、シングルマザーになった後はうちと同じくネグレクト状態だった。
誰かの一番になる事を渇望しながらも、一番になった後に誰かに盗られる恐怖に怯え、繰り返されていく悲劇や絶望を間近で見ていくうちに。
静かにジワジワと、
いつの間にか広がっていくふわふわな白いカビの様に、
リンちゃんは『永遠に1番で愛される事がない恐怖』に侵食されていったのかもしれない。
人の彼氏を取ってばかりで、既婚者ばかり好きになる。
リンちゃんは、そもそも誰かの1番にはなりたくないのだ。
始めから2番目なら、自分も相手を1番に愛さなくていい。
「愛されていると思えた事がないから、愛し方なんてわからない。」
そうぽつりと言った20歳のリンちゃんを、私は未だに忘れられない。

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誰かの事を本気で“一番”好きになり、好きになってもらえた時に、万が一それを手放す瞬間が来てしまったら。
そう思ったら恐怖の方が勝ってしまって、
人と距離を置きながら__
__初めから“誰かの2番目”という諦めに近いところにいて恋愛をする方がダメージが少ないという彼女なりの防御策…
もしくは頭でなんか考えてもいない、防衛本能なのだろう。
可愛い苺の様なリンちゃんには、ふわふわの真っ白いカビが生えてしまった。
腐ってしまう前に、私は多少の果肉ごとえぐり取ってでも、残った実を守りたいと思う。
でも。
・・・もしかしたらリンちゃんは、その白いカビを見ても私とは違う感じ方をする種類の人間なのかもしれない。
「何これ-♡何かふあふあで可愛くなーい?」とか言い出すのではないだろうか?
全然可愛くない数珠のブレスレットをなでながら中年の金髪不倫クソ豚野郎の話をするリンちゃんを見て、
私は11月の誕生日に、もっと可愛くて素敵なシトリンの付いたアクセサリーをあげようと思った。
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