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ルビーの男・マサト

※このお話はフィクションです。7月の誕生石、ルビーとそれに関わるお話。

前回の【ルビーの女・キョウコ】の回を見てからだとより楽しめます。→ルビーの女・キョウコ

***

いつになったら結婚するの?と、うざい位に周りに言われる。

そんな事、俺にだって良く分からない。俺はいつだって、何が正解なのか、どうすれば上手くいくのか何もわからない。

***

「いつ籍入れる?」

精一杯の勇気をもって、心臓をバクバクさせながら聞いた。

7年間も同棲したもう嫁さんみたいな存在の彼女を目の前に、きちんと目を見て真剣な感じで、今更こんな言うのは恥ずかしいしとても怖かった。

そう、怖かったんだ。

だからテレビは付けたままだった。無音が怖すぎた。

こんな大切な話をするっていうのに、俺ってやつは本当に最低だ。

本当は、なんかもっとちゃんとしたプロポーズをしようとも考えていた。

花束と指輪を持って、跪いて夜景の見えるレストランでプロポーズ。

でも、俺なんかがそんなカッコつけて、もし断られでもしたら、きっと一生立ち直れない気がした。

「…ねー。」

という、どっちとも取れない返事に拍子抜けなのと同時に、断れてはいない、と若干ホッとしていた。

と言うか、まさか今更断られはしないだろうと心のどこかで高をくくっていたのかもしれない。

俺という男は本当に、女々しくて、臆病で、カッコ悪い。

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彼女のキョウコは今年で36歳になった。

周りの友達からは、「彼女の歳考えろよ。可哀想だろ。」と口々に言われる。

でも、俺は小さな小さな町工場のサラリーマンで、月給23万円のさえない男だ。

34歳なのに手取りで25万もらえないのって俺だけなんだろうか?

怖くて友達にも聞けないけれど、ネットで出てくるデータの平均値は年金くらい当てにならない。

俺より2つ年上で、有名大学を卒業し大手企業で働いている彼女は俺より多分給料がいい。

彼女は背も高く、ジムで鍛えられ引き締まった体はまるでモデルの様だった。

顏も綺麗で、おまけにしっかりしているし、かと言って人を見下すようなこともしない。

社交的で常識人で、色んなオシャレなお店を良く知っている。

…ハッキリ言って、俺には釣り合いが取れると思えない位“イイ女”だった。

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昔、キョウコにドラクエのゲームに出てくるビアンカとフローラの話をしたら途端に機嫌が悪くなってしまった。

結婚相手のキャラに俺は最初フローラを選んで、そのあと再度ゲームをやり直しビアンカを選んだ。

大人しくてか弱そうなフローラは俺がいないとだめだ!!と思って初めはフローラを選んだ。

でも、選ばなかったビアンカは、その後誰と結婚する訳でもなく独り淋しく、山奥の小屋で野菜を作って細々暮らしていた。

フローラは俺が選ばないとちゃっかりイケメンで金持ちの王子様みたいなやつと結婚したって言うのに。

まぁ、ゲームの中の話なんだけれど。

それでも俺は、ビアンカを最初から選んでやらなかったことを物凄く後悔したんだ。

か弱そうに見える女ほどちゃっかりしていて、気が強そうな女ほど実は弱いのかもしれないと小学生ながらに思った。

俺はそんな感じで、キョウコはビアンカに似ているとずっと思っていた。

彼女は、フローラのようにちゃっかりできる女じゃない。

実は気弱で、俺がいないと駄目な女なんだ。と思っていた。

それを伝えたかったのに、やっぱり俺は上手く伝えられなくてまたキョウコを不機嫌にしてしまった。

「だから、俺はどんな清楚な乙女みたいなキャラのやつよりもお前の事を選ぶよ」って、本当は言いたかったんだ。

付き合って初めての誕生日に、俺は彼女にルビーの指輪をあげた。

とても喜んでいたように見えたけど、本当はもっと高いやつの方が良かったのかなとかデザインはこんなので良かったんだろうか?と心配だった。

イケメンだしモテるでしょうとよく聞かれるが、実は2人としか付き合ったことがない。

あまり人を好きにならないし、何より男友達と違って面倒くさい。

だから俺は、女の欲しい物はおろか、女の考えている事が何一つ分からない。

プレゼントなんて、考えても考えてもちっとも分からなくて、変な物をあげてガッカリされるくらいなら本人に何が欲しいかハッキリ聞いた方が良いと思った。

デザインとか分かんないし、一緒に買いに行こうと言ったらどんなデザインでもいいからマサトが似合うと思った物を買ってきてと言われた。

何も分からない俺は、悩んだ挙句1粒の小さなルビーの付いた物凄くシンプルな指輪をあげた。

ドキドキしながら手渡すと、「マサトがくれる物なら、なんでも嬉しい。ありがとう、大切にするね。」と本当に嬉しそうにキョウコは笑った。

めちゃくちゃ可愛かった。こんなに可愛い人が俺の彼女なんだと思ったらマジで嬉しすぎて。

俺は本当に本当に嬉しくて、思わず「結婚したい」って言いそうになった。

でも、俺みたいな大した仕事もしていないさえない奴が何言ってんだって頭の中で声がして、そんな言葉はやっぱり言えなかった。

月日がたてばたつほど、俺はどんどん何も言えなくなった。

30歳って、女の節目みたいなことをめちゃくちゃテレビで見ていたのに、知っていたのに、その時ですら俺は自分の給料の低さと将来性のなさから彼女にプロポーズできなかった。

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***

「35歳から高齢出産になるって、知ってる?」

よく飲む地元の女友達からその話を聞き俺は「ヤバい。」と思った。

キョウコは見た目がすごく若い。どう見ても28、9歳位にしか見えないから、そんな事は全然考えてもいなかった。

「可哀想とまではいわないけどさ。ちゃんと一回真剣に話した方が良いよ。結婚しないならその子の時間がもったいない。」

お前なんかに時間使ってマジでもったいないわー。と、言われた気がした。

俺はそれからネットで指輪を調べまくって、女友達にも意見を聞きまくって、プロポーズ用の、、婚約指輪を選んだ。

給料の3か月分なんてのは無理だったけど、精一杯素敵な物を、キョウコが好きそうな物を探した。

ダイヤモンドも良いなと思ったけれど、あえてルビーを探した。

ルビーをあげた時のあの嬉しそうな顔が忘れられなかったのと、無色透明なキラキラよりもピンクみたいな赤い色がキョウコには似合うと思ったからだ。

キョウコはいつも、周りの女の子が付けないような濃いピンクの口紅を付けていた。

なんて言うか、人とちょっと違う物が似合うような女なんだ。いい意味で。

中世ヨーロッパでは、婚約指輪はダイヤモンドではなく誕生石だったのだとネットの記事で読んだ。

36歳の誕生日に、この指輪を渡そう。サイズが変わってなければいいんだけど。

***

誕生日は最悪だった。

俺は何でいつもこうなんだろう。

指輪に夢中でケーキの予約はおろか、レストランさえ選んでいなかった。

2日前に気付いたものの、急な受注が入り納期が詰まっていたので仕事でバタバタして結局何もできなかった。

こんな時、俺がもっとオシャレで気の利いた奴だったら素敵な行き付けの店が1つや2つは思い浮かんだかもしれないのに。

大衆居酒屋にしか行かないような俺は、キョウコの様に表参道や中目黒の店なんて一つも知らなかった。

仕事帰りにデパートでケーキを買って、キョウコが作った料理を食べて誕生日は終わってしまった。

チクショウ。今までで一番最悪なバースデーになっちまったじゃないか。

指輪の事で頭がいっぱいで、タイミングばかり考えていたので何もかも上手くいかなかった。

いつ指輪を渡そう。絶対に怒っている。彼女はいつも俺のやらかす事に決して文句は言わない。

でも、絶対に怒っている。物凄く静かだ。怖い。テレビよ、助けてくれ。…無音に耐えられない!!!

こんな空気じゃ、鞄の中に入っている勇気の塊の指輪を取り出す事さえできない。

…どうして俺はいつもこうなんだ。

「マサトの良い所って、マジで顔だけだな!!ww」という、幼馴染のアスカの声が聞こえてきそうだ。

…来週渡そう。来週、なんかそれっぽいレストランを予約して、それで思い切ってプロポーズしよう。

あぁ、俺はいつもこうだ。

来週にしよう。そう言ってビビってる間に7年もたっちまったんだ。

***

レストランを予約し仕事から帰ると、俺は週末の休みに一緒に外食しようとキョウコを誘った。

だけどキョウコから「大切な話がある。」と言われリビングの椅子に座るように言われた。

俺は何だか、嫌な予感がした。

***

おしまい

***

前回のお話を読むと、より状況が分かります!→ルビーの女・キョウコ

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