※このお話はフィクションです。氷の様なクールで脆いミズキちゃんのお話。
お話の最後の最後まで読んだ人にだけ、違う未来が見えます。
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『始めから、壊れてしまうと思って買うの?』
キョトンとした顔で不思議そうにそう聞く彼を、私だって不思議に思った。
だって、そう思わない事の方がはるかに少ないから。
物を買う時、私はいつか必ず壊れるし使えなくなる時が来るものと思っている。
ブライダルジュエリーデザイナーである私の立場でこんな事を言ってしまうと、
自分で半永久的に使えるような物を作っておきながら何を言っているのだと怒られそうだけれど。
100年前のアンティークジュエリーが今もなお美しく存在し続けるのは、大切に、そして丁寧に受け継がれてきたものだから。
そう言った“大切に受け継がれていく物”の話ではなくて。
言いたいのは、私だけで完結するモノや事について。
息をするようにタバコを吸う、痩せた青年とした何気ない会話が何だか心に残ってしまった。
お気に入りの靴やカバン、洋服にアクセサリー。大好きだし長く使いたいから丁寧に扱うし大切にする。
私の物持ちの良さは異常とさえ言われる。そのくらい、私はモノを大切にする。
でも。
お気に入りの色のクレヨンだけがすぐになくなってしまう様に、好きなら好きなだけ、使えば使うだけダメになるのも早い。
上質で高価な服も、ファストファッションのペラペラな生地の服も同じようにお気に入りで大好きだけれど、どちらの服も時間は違えども同じようにダメになると思っている。
着れば着るほど、洗濯すればする程。使えなくなるタイミングが、ただ遅いか早いかだけで。
そんな私は、お祝いの花束も、お気に入りの靴も、素敵なインテリアも、そして人間関係にも、同じように寿命があると思ってしまっている。
枯れていく花、擦り減っていくヒール、割れてしまう鏡。
結婚してから価値観の変わった友人、遠くへ行ってしまった恋人、年収や職種で何となくバラけていく仲間の集まり。
たった一言で、何の気なしの行動で、簡単に崩れ落ちていく信頼関係や友情。
そしてその多くは、二度と元に戻らない事が多い。
見た目だけ綺麗に直せたとしても、本当の心はその痛みや不安を決して忘れない。
お気に入りの小物が壊れた時も、大好きな人達が離れて行っても、『始めから決まっていた避けようのない事』なのだという気持ちの準備をあらかじめしておかなければ、
壊れてしまった時に、失ってしまった時に、そのショックに耐えられない。
だから、始めから壊れた時の事を頭の片隅に何となくイメージして過ごす。
『人間は、モノじゃないよ?』
と、青年は言う。だから初めからダメになると思って人間関係を作る訳ではないのだと。
あぁ、なるほど。と思った。だからあなた達はいつだって。
あぁ、私はそうじゃないのかもな。いつだって。
怖くて怖くて、不安で不安で。
私は買い物をしていてお気に入り過ぎる物に出会った時、使う用、予備、保存用と何かあっても大丈夫なように沢山沢山保険を掛ける。
予備までは分かるけど、保存用って何なんだって自分でツッコミを入れながら。
例えば凄くお気に入りの高価で美しいシルバーリングを、何かの拍子に傷つけてしまったりする。
“これは限定品で、もう生産されないんですよ。”という店員の声が、頭の中でこだまする。
あぁ、と思う。
やっぱりもう一個買っておけばよかった。そうすれば、この傷や凹みも使い続けた味なんだなって納得できる。
いや、もぅ、むしろその凹みが自分の歴史を感じさせてカッコ良くさえ見えてくる。
でもたった一個しか持っていないそれが傷つくと、とたんに不安になって、やっぱりこの傷はなかった方が良かったよ、
同じ物を、ピカピカな物をやっぱり保存用に、って思う。
指輪なんて着けなければ意味がないのに。どうしてこんな気持ちになるんだろう?
傷なんて付けたくないよ。綺麗なまま、ピカピカのままがいい。
傷なんて、ない方が良いに決まってる。
でも、一点物にその保険はかけられない。
なのに、大体気に入るものは一点物だったりするんだよな。
だから、似たようなお気に入りをもっと、もっと、集めて、集めて。
どれか一つが壊れてしまっても、他のお気に入りで心を満たせるように。
“いつだって壊れることなく永遠に”そこに存在し続ける。
そんな気持ちでいたら、失ってしまった時に『壊れる事はありませんよ』と言っていた店員に『嘘つき!!!』と発狂しながら攻撃してしまうだろう。
“いつか使えなくなってしまうもの”と心のどこかで怯えながら使う事でしか、素敵なファッションを、可愛い小物を、人間関係を、噛みしめて楽しむことが出来ない。
『始めから、壊れてしまうと思って買うの?』あの青年の、透き通るような声が、頭から離れない。
***
『ミズキちゃんは、冷めているのに繊細で、冷たいのに柔らかいね。』
アクアマリンのようだ、と笑って、彼は残ったグラスのお酒を飲み切り去っていった。
ジュエリーの話をして、ダイヤモンド以外の石の名前をサラッと言った男性は今までいただろうか?
連絡先を、何故聞かなかったのだろう。
名刺を渡しただけでは、きっと、___いや、絶対に彼から連絡は来ない。
彼とはきっと、もう二度と会えないだろう。
彼の横顔が目に焼き付いて、去っていく彼の背中をギュッと胸が締め付けられるような気持で見つめていた。
不思議な魅力の彼に確かに惹かれたというのに、“冷めているのに繊細な自分”のせいで私は自分から連絡先なんて聞くことが出来なかった。

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『たーのしいことだけかーんがえよーよー』と言う彼女達の若い言葉に怯える。
朝なのにおやすみと言う彼らの耳には四つ打ちが残る。
荒い運転、少し悪い言葉、本当の事は何も言わない。
何となくの年齢とあだ名しか知らないのに一緒に遊ぶ友達。
常に震えるスマホ、馴染みのない職種、美しい顏。
無邪気にさえ見える、単純な行動。
どんなに優しい言葉をかけられたって、一緒に楽しい時間を過ごしたって、どこかでブレーキをかけて信用しない。
そう。
安くてペラペラなのは、承知の上なのだ。
今流行りの、超絶可愛いモノ達は全部made in China。
世の中のほとんどの物は、きっとそこまで上質な物で出来ていない。
ペラペラの生地の美しいデザインで溢れている。
技術の発達した今、シルクとポリエステルの違いを、私達はきっとすぐには分からない。
それでもそれを見て私は、他にはないデザインでキラキラでいいなって思う。
大切にして、出来れば長く着たいなって思う。
流行のファストファッションは、今この瞬間しか着れない服になるのかもしれない。
でもその服が世に出回らなくなって、手に入らなくなってから着てみたかったなと後悔したくない。
あのトレンカやレギンスが爆発的に流行った時代に、私はそのファッションで毎日友人と渋谷を歩いていた事を、きっとおばあさんになっても忘れる事はないでしょう。
だから私は、いつかきっと壊れるであろう素敵で大好きな物をなるべく長くそばに置いておきたいと願いながら、
本当に心から大切にし、
そしていつも、そっと、ダメになる準備をするのだ。
あぁ。
強さが、勇気が、希望が欲しい。
永久保存用や予備を必要とせずに、傷がついても壊れても、そんな事は気にせずこれが味なんだと大切に思えるような心が。
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『あの!!!』
息を切らすほどの距離ではないのに、私は動悸が止まらずにかすれる声を振り絞って声を出した。
『あの、やっぱり、LINE、聞いても良いですか?』
私は分かっていた。
LINEを聞いたら、絶対に私達はきちんとお付き合いする事になるだろうと。
それは多分、世間一般から言えばそこそこ長い期間になる事も。
誰も信じてはくれなかったけれど、物心ついた頃から私にあった、数年先の未来を当てる事の出来る不思議な力。
数年たってしまった後に見える未来がどんなに薄く脆く色のないアクアマリンのような水色でも、
それでも私は、今見えるほんの少し先の未来に行きたいと思った。
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おしまい。
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